イチョウは「貴重」
以前、桐箪笥製造の職人さんと話をしていて、
引き出しに「乾燥させたイチョウの葉を入れると虫除けになる」と教えてもらいました。
秋が来るたびにその話を思い出していたものの、なかなか実行に移せずにいましたが
今年初めて試してみることにしました。
秋晴れの早朝、イチョウの落葉を集めて汚れを落とし、すぐに半日ほど天日干しをします。
その後風通しの良い日陰でさらに乾燥させます。
室内の方がいいかもしれません。乾いた葉は風に舞います(涙)。
乾燥させている間にイチョウの葉を入れる小袋を綿か絹地で用意します。
綿 (市販の晒生地など。手拭いやハンカチでも良いと思います。)
絹 (きものの胴裏や残り裂など)
今回は晒生地を一度洗って糊を落として袋にしました。
大きさはイチョウが4〜5枚ゆったり入るくらい。
官製ハガキを型紙にするとちょうど良い感じでした。
晴天が続いて空気が乾燥している日を選び、きものの「虫干し」を兼ねて
箪笥からきものを取り出して引き出しの中を乾拭きし、
戻したきものに触れないように隅にイチョウの小袋を置きます。
どのくらい効き目が持つのかを聞かなかったのですが
きものの虫干しと同時にイチョウの葉を取り替える、ということを
毎年の秋の習慣にしていただくときものの為にも良いと思います。
さて、ここからがうんちくのお話。
イチョウと虫除けの関係を詳しく知りたくて、東山動植物園の「植物相談室」を
たずねました。
相談にのってくださった先生が開口一番おっしゃったのが
「イチョウはね〜、貴重なんですよ!知ってました?」
というお言葉。
イチョウはおよそ一億五千万年前(恐竜時代)にはあったそうです。
それが気象変動などで世界中で絶滅したと思われていましたが、
唯一生き残った樹が中国で見つかり今につながっているそうです。
イチョウが「生きた化石」と呼ばれていることを初めて知りました。
日本には中国に派遣された留学僧が持ち帰り繁殖させて、室町時代には
すっかり根付いて広まっていたそうです。
江戸時代、長崎に来日したシーボルトがヨーロッパでは絶滅してしまった
イチョウを見て驚いたそうですが外国からの旅行者は今でも街中を彩る
イチョウを見て皆さん感動するんですよと教えてくださいました。
ただ、相談室の植物の専門書に虫除けの記載はなく、
東山動物植物園のお隣、千種図書館の植物本コーナーで調べて見ました。
イチョウについての興味深いお話や伝承がたくさん見つかった中、
防虫について触れた一節を
著者 川尻秀樹さん 、社団法人 全国林業改良普及協会発行の
「読む」植物図鑑 樹木・野草から森の生活文化まで という本から引用させていただきます。
葉は昔から抗菌や防虫の効果があるとされ、しおりとして書籍の間に挟み、
本を食害する体長一センチメートルで銀色の鱗に覆われた神魚
(ヤマトシミ:Ctenolepisma villosa)の侵入を防ぎました。
絹には虫がつきません。
知らずについた食べこぼしや、きものを包む 和紙のたとう紙を狙って
虫が侵入してくるのを防ぐためにイチョウの葉が良いという、先人の知恵ですね。
ちょうど今、落葉盛んな頃です。
お散歩がてらイチョウの樹を探しにお出掛けになってはいかがでしょう。
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